将来から今を考える(好かれるワケ、嫌われるワケ第六回)

最近、疑問に思っていることがある。日本での雇用が一段と悪化しているというが、果たして、介護施設の人手不足は解消したのだろうか。日本の食糧自給率が40%を切ることが問題視され、内外から日本の安全な食料への需要が増える中、農業に従事し、無農薬や減農薬で栽培する人はどのくらい増えたのだろうか(2009年1月時点)。
一方、雇用を増やせ、という声が聞こえるがどこからそのお金を捻出するのだろうか。もともと日本の労働力の相対的な競争力の低下が要因の一つである。それを無視していかにして雇用を増やすことができるのだろう。それよりも、介護、農業、後継者が不足している仕事などに労働力が十分供給されていない領域に雇用を求める人たちをつないでいくことが必要であろう。
そうしたことを前提に、企業に雇用を求めていくとしたら、企業の競争力を高める領域に雇用の維持を求めていくことが重要であろう。日本の競争力を高めるには、新たな価値創出のため知的資産を有効に活用していくことが求められる。それなのに、研究開発や新規商品・サービス開発への投資を必要以上に削る行為に出ていないだろうか。今のような不況下では、支出を減らすことが企業を存続させるために必要不可欠なことは重々承知である。しかし、行き過ぎた投資削減は長期的な企業の競争力を弱めかねない。ただ生き延びただけの企業に何が待っているのだろう。企業は歯を食いしばってでも、将来価値を生むものに投資しなければならない。
我々はかつて失われた10年のあと、飛躍した企業と飛躍できなかった企業を見てきた。結局は、価値創造のため、人の育成などへの投資を怠らなかった企業が飛躍できた。短期的な株主価値を高める活動だけに終始した企業は飛躍できなかった。適切な領域に投資を十分行わず、そのため競争力が結果的に衰え、収益力が低下したことを、投資化や株主から指摘されたのではなかったか。
企業が投資を維持することで、日本の内需も刺激されるはずである。同じことが個人消費にもいえる。組織の中で働く正社員は、支出を絞らずに、必要なものを購入していくことを心がけるべきだ。朝から晩まで、様々なメディアで不景気である情報が繰り返し提供される。情報社会といって情報を収集すればするほど不安が増長され、支出を切り詰めようという気持ちになる。それが結果的に景気低迷を長引かせることにならないか。
組織や個人の中には、今回の景気低迷でもあまり傷ついていない組織や人がいるはずである。また、景気の良い組織や人もいるはずだ。そういう組織や人は、過剰な不安情報を収集するよりは、傷つき、雇用に不安を抱える人のためにも、自分や組織を信じてもう少し投資してみてはどうだろうか。個人が価値をより高める活動の必要性は、将来から今やるべきことを振り返れば、自ずと見えてくる。
(この原稿は、生産性新聞2009年1月15日号に掲載)

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