好かれるワケ嫌われるワケ(第二回)

 高校バスケットボール界で「能代工業高校」といえば、全国大会で50回以上の優勝を誇る名門中の名門である。そこで30年以上式を執った加藤廣志監督は、常勝の理由を「『我に続け』という指導から、先生、マネージャー、OBの総合力での指導に変えたこと」だと述べている。
 なぜ、加藤氏はそのような指導方法に変えてきたのであろうか。加藤氏は、一人ひとりを見続け、長所を探し、目標として示し、変化を見逃さないことを指導の要諦としている。また、チームを強くするためには、3年経ってもユニホームを着られない部員にいかに心を配るかであると言っている。
 当然、レギュラークラスにも目を配らなければならず、全員を見続けるには限界がある。そのことに専念するには、技術、戦術の指導などに任せられることは任せなければならなかった。そしてそのほうが、自分でひっぱるやり方よりも、結果的に成果が出た経験から、確信に至ったに違いない。
 しかし、世の中には、「2対6対2の法則」とか、「20対80の法則」と呼ばれているものがある。
全員に心を配るよりも、バスケットでいえば優秀な選手に絞って指導するほうが効率的なのではなかろうか。全員に目を配ることを大事にすることと、この原則をどのように考えればよいのであろうか。
 それは、組織の基盤づくりを考慮すると整理できるのではないか。組織の基盤がない中でいくら「20対80の法則」を使って指導しても、基盤がある中で指導するようには成果が出ないのだろう。
一人ひとりがうまくなるための目標を持ち、練習し、成長を感じられることが何よりも能代工業バスケットボール部の基盤になっており、その基盤を継続していくことが常勝軍団の要件なのだろう。
 基盤という言葉を習慣と言い換えても良いだろう。一人ひとりがバスケットボールに向かう姿勢として、自らの目標を設定し、それを克服していくために練習し、試合によって振り返るという行動を習慣化させている。結局これが強いチームを作っている。
 基盤、あるいは習慣をいうことを、組織経営で考えてみたら、どういうことになるのだろうか。やはり目標を設定し、それを達成するために、自らの能力を伸ばし、チャレンジし、振り返り、達成を喜ぶというPDCAを回すことが組織の基盤であろう。各人がそれを習慣化させていくことが、成果を出し続けるには必要不可欠なのではなかろうか。
 ただやみくもにPDCAを回せ、と経営者がいうのは、練習しろ、とコーチがいうのに似ている。それでは、やる人はやるが、手を抜く人は手を抜く。そして手を抜く人の比率が多い間は、組織基盤は脆弱なままなのではなかろうか。
 「1日たりとも部員と離れる指導者は、ただのコーチですね」と加藤氏の発言の中に、どのようにPDCAを回すのか、ヒントが隠されているような気がする。
 (『WEDGE』2008年4月号 トップランナーを参考にしました)
 この記事は生産性新聞2008年9月15日に掲載されたものです。

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