組織のバージョンアップ

「出来なかったことが出来るようになった喜びを感じる組織になることが変革の始まり」

私たちが、出来なかったことが出来るようになった喜びを最後に味わったのは、いつのことだろうか?私たちはそれを成長と呼ぶ。そして成長したことを自分で感じ、それがわずかなことであっても人に認められることを喜びと感じるものだ。このコラムの最初のほうでご紹介した能代工業の加藤前監督は、3年間ユニフォームを着ることのできない生徒のわずかな成長を見逃さないことが監督の務めであると話していた。またユニークな教育で成果をあげている品川女子学院の漆学校長は、学生のころ水泳の能力では目立たなかった彼女のタイムが自己ベストを更新したことを素直に認めた先生のおかげで教師を目指したと聞く。

教育という領域だけではなく、マネジメントの領域でも、成長感は重要である。例えば、マネジメントのポイントとなる「目標による管理」も、この成長による喜びを自ら認識し、認められるということが原点にあるような気がする。自ら、少し高い目標を設定し、それに果敢に取り組み、達成することで達成感を味わう。同時に、後ろを振り返ると成長した自分を認識する。

子供のころ、学生時代、社会人として張り切っているころには、いつも成長を感じているものだ。それがいつの間にか、仕事になれ、管理職になり、あるいは経営する立場で組織成果への責任が重くなるにつれ、成長を感じる機会が失われる。自らが成長しているという実感が、たとえ新たな壁にぶつかったときでも「何とかなる」と踏ん張る素となる。しかし、成長を感じず、何かを処理し続けていると、喜びも感じず、踏ん張れるという自信も失う。

フランス哲学だけではなく身体能力に関する著作も多い内田樹教授は、元神戸製鋼のフルバック平尾剛氏との対談の中で、身体能力をつかさどるOSのバージョンアップの重要性を説いている。身体は、様々な部位が様々な目的に対してバランスよく機能することで運動が成立しており、特定の部位だけを強化し、根性や努力を基盤とする身体強化では、結果が出ないことを指摘している。筋肉を動かす微細な動きができるように強化し、今までにできなかった動きができるようになる方法を薦めている。そのためにはそのような動きをコントロールするOSをバージョンアップすることが必要だそうだ。

 時代の変化に対応して価値を生むということは、これまでにはない能力を身に着けていかなければならないということである。そのためには、これまでにはない新たな能力を身につけるだけの組織としてのヴァージョンアップが必要と考えることはできないだろうか。経営のシステムや管理方法を変えるよりも、それを動かす元となるOSのバージョンアップがもとめられる。早さを求めるには早くできるようなOSに会社を切り替えていく必要がある。

微細な動きができるとは、個々人の意識の変革であり、思考の変革であり、対話の変革であろう。個人という細かい単位での変革が、組織全体で今までにできなかった動きを可能とする。そしてそれを経営革新と呼ぶ。まずは、できなかったことが出来るようになったと感じ取れる感覚を取り戻すことから経営革新を進めてみてはどうだろうか。
(このコラムは生産性新聞2009年6月15日号に掲載されたものです)

コメント

人気の投稿