戦略を創りこむ

分析する前に戦略パターンを決める

こういう時期だからイノベーションが生まれる、といわれる。そういう意味で、今は企業として戦略を見直す時期である。新たな戦略を検討するには、思考の枠組みを変えることが望ましい。既存の戦略の延長で検討することになる。ポーターの戦略フレームワークやリソース・ベースド・ビュー(RBV)のフレームワークは、分析型であること、敵を見ることを優先する(競争優位性を重視する)という意味で同じ立場になる。このように分析を優先し、ある程度同じ情報で戦略を策定すれば、似通った戦略になり、同質化を免れることはできない。同質化すると結果的には価格競争になり、収益性に大きな影響が出る。

同質化を免れるためには、情報の質を上げて思考の枠組みを変えるか、戦略検討のステップを変え、思考の仕方を変えなければならない。情報の質を上げるためには、どのような情報を意識するかを明確にしなければならない。人は、様々な情報が五感や言葉を通じて入ってくる。しかし、意識しないとその情報が入っていることにも気づかない。組織としてその状態を避けるためには、なるべく生の情報を加工せずに組織内で蓄積できるようにすることが重要である。そうすれば情報を得た人が気づかないことでも、他の人が見ることで情報から新たなニーズに気づくことができる。また、マネージャークラスの思考が固定化していると、せっかくの情報がマネージャーの理解しやすいように解釈され、抽象的な内容に転化してしまう。直接、トップや他部門が生情報にふれていなければならない。現場百回はそのためにも重要である。

戦略のプロセスを変えるという面では、分析してから戦略を決める方法から決別する必要がある。分析する前に戦略のパターンを決め、それを実現するためにはどうすればよいのかを分析し、実行していく方法に変えて行くのである。ポーターは、戦略のパターンはコストリーダーシップか、差別化の二つであるといった。そのため、多くの組織がその二つを前提に戦略を検討することになった。そして同質化を招いた。その後、CSの重要性が強調されたが、一部の企業を除き、差別化戦略の一要素として扱われ、事業戦略の一つのあり方と位置づけられていたとはいえない。CSの課題はここにある。CSを事業戦略のパターンとして理解することがなかなか出来ないのである。

更に、デファクトスタンダードの戦略も加えて、戦略のパターンがいくつかに類型化される。ビジョンを語る際に、どのような戦略のパターンをとるのかを明らかにしなければならない。ポーター型の市場・競合分析、RBV型の経営資源の分析からでは、どのような戦略のパターンをとるべきかを見出すことは難しい。やはり、どの戦略パターンにするのかを決めてから、そこに焦点を合わせると情報が集まり、分析が深められ、戦略パターンを実行するための対策を明らかにするほうが容易である。ビジョンをつくり、戦略を策定していくというプロセスの中で、戦略パターンを分析前に見当することの重要性が見逃されてはいないだろうか。
(この原稿は生産性新聞2009年7月15日の原稿です)

コメント

人気の投稿