患者中心の医療を考えるシンポジウムに参加して

 患者中心の医療を考えるシンポジウムに参加してきました。これは、日本製薬工業協会広報委員会が、東京大学医療政策人材養成講座(HSP)2期生の「患者の声をいかに医療政策に反映させるか」研究を基に、それを発展させていくことを意図したものです。
 私は筆頭研究者の伊藤雅治さんや、「患者の声を医療政策に反映させるあり方検討会座長」の長谷川三枝子さんのプレゼンテーションは聞くことができなかったのですが、パネルディスカッションに参加し、とても勉強になりました。パネルディスカッションはまずコーディネーターの埴岡さんから問題を整理していただいた後。HSP2期で共同研究者の佐藤(佐久間)りかさんからイギリスでの事例の紹介がありました。イギリスでは、NICE(National Institute of Health and Clinical Excellence)の中にPIU(Patient Involvement Unit)という患者の声を反映させる部門が組織的に活動しているという紹介でした。
 次に癌と共に生きる会副会長の海辺陽子さんから、「がん対策推進協議会」誕生までの活動の経緯(特に会長の強い思いと行動力が道を切り開いてきたこと)の紹介とそこから得た知見について紹介がありました。主張するだけの集団ではなく、バランスをもって提案のできる集団に変わっていくことの重要性を示唆されていたと思います。その他、厚生労働省 上田大臣官房技術総括審議官と西島参議院議員のプレゼンのあと、伊藤さん、長谷川さんも入れてディスカッションに入りました。
 私がこれまで気になっていたこと(それはどうも皆が気になっていたことなのでしょう)が議論の俎上に載ったことがとても印象的でした。海辺さんの話に関連するのですが、患者会はこれまでの特定の疾患に関する医療環境を良くしていくことが目的であったのですが、患者というひとくくりにすると特定の疾患の利益と疾患全体(患者全体)の利益は必ずしも同じではなく、対立する可能性が出てきます。つまり全体の目的(患者の声を政策に反映させていく)実現のためには、その過程において、場合によっては自らの特定領域の主張の優先順位を下げていく必要性が出てくるかもしれません。
 更に、市民を巻き込んだ活動にしていくと、例えば医療費に関してなど意見が全く正反対になる可能性が高いのです。患者会からすると特定の疾患に対してきちんとした医療費を取って欲しい、患者会全体でいうと医療費の増大をして欲しいという意見に対して、一般の市民は医療費の増大は論外でしょう。こうした矛盾に対して、関心のない市民の意識、思考、理解を変えていくのかを考えなければなりません。
 パネルディスカッションで結論は出ていませんが、患者会自身が変わっていかなければならないことがパネリストから示唆されていたように思えます。実際には、会場との質疑応答の中で、相変わらず自らが率いる患者会の考えを質問という形で述べる人がいます。私は、患者の意見を医療政策に反映させていくためのい患者会のネットワークがそうした矛盾を内部に組み込みながら、生まれ変わっていくプロセスを応援していきたいと思います。
 今回参加された行政の方、立法の方は自らが変わらなければならないかに気づかれたかどうかはわかりませんでした。しかし、社会システムである以上、患者会が変われば必ず他のステークホルダーも変わっていくはずです。むしろ、意識の高い患者会メンバーと行政、立法、医療従事者、マスコミは考えが一致するのですが、それぞれのステークホルダー内の意識のばらつきが目立ってくるのがこれから数年の流れではないかと思います。
 気づいた人が引っ張っていく。それしかない。だからこそ気づいた人を応援して行きたいと思っています。

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