協働とシステムの重要性

 協働を成功させる条件をめぐっては、「大切なのは善意であって、必須の技能があるわけではない」という見方が多く、これが成果があがらない一因となっている。実情は全く逆である。協働の素地を作るのは骨の折れる仕事だと、覚悟しておく必要があるのだ。時間がかかるほか、献身的な努力が欠かせない。さもないと、争うを避けたり、話し合いの末に従来の見方にお墨付きを与えるだけで終わったりするなど、昔ながらの悪習が頭をもたげてくる。

 難しさの背景には、多様な人や組織が集まった中で学習を目指すハードルの高さが十分に理解されていないことにある。例えば、誰か一握りの人々のビジョンが陰に陽にほかのメンバーに押し付けられる。あるいはいさかいを避けたいがために、えてして厄介なテーマに踏み込まないようにする。信頼の重みは承知しているが、たいていは信頼をつむぐたしかな方策を持ち合わせていない。言葉では、「境界を越えて協働したい」と述べたとしても、結局のところは自分たちに特有の考え方を捨てられない。

 現状を出来る限り客観的に捉える力も、ビジョンと同じくらい重要である。ビジョンの重要性は心得ていても、現状の難しさや痛ましさには目を向けようとしない。あるいは、現状のあら探しばかりして、自分たちの助けになりそうな利点には気づかない人々がいる。

 現状をシステムとしてとらえることは、未来を切り開く上で必須である。これを怠ると問題を断片的にしか見ず、ともするとその場しのぎでお茶を濁してしまう。世界のここかしこにおいて、持続可能性をめぐる危機の諸側面への対応がなされているが、このような努力の多くは、気候変動、原油価格の上昇、廃棄物や有毒物の増大、食品の汚染、水不足、社会や政治の不安定といった個別の脅威に目をとめてそれに対処しようとしており、個別の脅威が互いに結びついているかを深く考えない。

(ピーター・センゲ他「持続可能な未来へ」)

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